学生を支える先生たちの声

「江別工業団地協同組合から、このプロジェクトへの投げかけがあったのは2016年6月。一つのゼミで行うのは難しくても、複数の教師が協力するチームティーチングなら可能にできる。多くのことを学ぶ機会になることを視野に入れ、経営学部のキャリアマーケティングを専攻する3年生を対象に、単位修得の課題の一つとして実践することになりました」。そう話すのは同学部の渡邊慎哉教授。「地域を担う企業を知ることは、学生にとって非常に重要。社会に出る前に学生を育成する、本学の目的にも添う内容でした」。
アルバイトの経験はあっても、企業を訪問取材するなど誰もが初体験。ましてやトップである社長に接し、生の声を聞くことは社会人になっても稀なこと。学生はもちろん、指導する先生にも進めるための工夫があったようだ。「リクルートスーツを身につけ、自分たちで名刺も用意し、渡し方のトレーニングもしたんですよ」。笑顔で語るのは就職の指導も行っている石川千温教授(同校副学長)だ。「訪問先の会社を下調べして、伺った先で何を聞くか困らないよう事前準備させることは大事でしたが、彼らの自主性を妨げないよう距離をはかりながら指導していくことが、教える側にとっても重要なプロセスでした」。最終学年を迎える前の3年生に社会性を身につけてもらうのも、大切な目標の一つだ。
企業へ赴くまでの調査から、実際に訪ねての取材撮影と執筆。その長いインタビューのなかで何を記事にし、どんな紙面を作るのか…。「自分たちが感じた大切な部分を、濃縮して伝えることの難しさを学生たちは学びました。失敗を経験しながらも不十分さを克服し、自ら気づきを繰り返して彼らは成長するのです」。歯がゆさを感じても、なるべく手を貸さない。徹底した見守り主義を貫いたのは吉川哲生准教授。「学生たちの苦労する姿を見て、企業の皆さんも理解を示し、いろいろと協力してくださいました」。取材だけではなく、こういった双方向のやりとりのなかで、会社の魅力や価値を見いだしていくことが、学生たちの感性を磨く結果となったようだ。
大学の授業の一環ということもあり、当初はやらされている感が否めない学生だったが、回を重ねるごとに気持ちに熱を帯び、前向きに取り組む姿に変わっていった。「取材させてください…という課題(仕事)に対する謙虚さが彼らのなかにいつの間にか生まれました。企業の大事な時間を自分たちのために割いてもらっているという感謝の気持ち。この心の成長は社会に出てから多いに役立つはずです」。常に温かな目で学生に寄り添うのは、碓井和弘教授。「暗中模索しながら、最後には自分の手で完成させていく達成感。あきらめずに取り組むことで得られる喜びは、彼らだけの宝ものです」。学生たちの得たものは、単位を超えた「経験」なのかもしれない。
副学長で就職指導も兼任している石川先生は言う。「企業の社長や上層部の方に、堂々と話を伺ってくるのは勇気がいります。今回のプロジェクトは、まさに就職や社会に出てから直接役立つアクティブラーニング。短期間で体験するインターンシップもありますが、幾度となく取材の企業に足を運び、自主的に、しかも能動的に動くことは学生にとって高いハードルとなります。だからこそ貴重な経験なんです」。教える、学ぶという関係にある教授と学生。そこには彼らの将来を見据えた先生たちの愛情がある。かわいい子には旅をさせよ。多少の苦労は将来ため。場数を踏むたびに成長し変化していく子どもたちの姿に、先生側も感動をもらったようだ。
「でも教える側の私たちにも、たくさんの学びがあったんです」。ここで口を開いたのがプロジェクトの紅一点、橋長真紀子准教授。「学生のアイデアは計り知れません。私たちの思いや考えを超えた発想が次々に生まれてきて、その素晴らしさに驚きました。私たち教師にとって必要なことは、教え込むことではなく、彼らの能力を引き出すことだと、改めて感じました」。
学生の想像力と創造力は無限大。
江別の学生に地域の企業を知ってもらうことが大きな目的で始まった、江別工業団地広報プロジェクト。組合はもちろんだが、大学での取り組む姿勢によって、その当初の目的をさらに超え、学生の能力や社会性を大きく伸ばす結果となった。このプロジェクトは2016年度の3年生からスタートし、現在、2017年度の3年生が次なる企業を取材し記事にまとめる授業を受けている。明るく元気にのびのびと。挫折や苦労を味わいながらも、自らの課題にチャレンジしてもらえたらと願っている。
※この記事は、5名の先生への取材をもとに構成し原稿を作成しています。